今日から君の専属マネージャー
涼ちゃんが先にお風呂に入っている間に、私は濡れた体や髪をふきながら、お母さんに事情を説明した。
吉田さんの怪我こと、吉田さんの代理で、夏休みの間、涼ちゃんの専属マネージャーとして働くことになったこと。
話し終わると、涼ちゃんが出てきた。
深刻そうな顔で私の話を聞いていたお母さんの顔が、嘘のようにぱっと明るくなった。
「ごめんなさいね、お父さんのパジャマしかなくて。サイズは大丈夫?」
「はい、すみません、お借りしてしまって。ありがとうございます」
__お父さん、あんなパジャマ持ってたっけ?
おそらく新品のパジャマだろう。
グレーのパジャマは、涼ちゃんが着るだけで、「地味でおじさんっぽい」パジャマから、「渋くて風合いが良い」パジャマになる。
半そでと半ズボンから延びる涼ちゃんの長い手足は、色っぽくて、それを見るだけでパジャマが喜んでいるのがわかる。
涼ちゃんの手には、丁寧にたたまれた衣服と、使用済みでも高級感を残す、ふんわりとしたバスタオルがあった。
「今からごはん用意するから、ゆっくりしてて。
服もずぶぬれだし、乾きそうにないから今日は泊まっていって」
お母さんは涼ちゃんが抱えた洗濯物を恥じらいながらそっと取り上げると、上機嫌で洗面室に向かっていった。
「あ、お母さん、洗濯なんていいですから」
「やだ、お母さんなんて。京子さんって呼んで」
そんなお母さんと涼ちゃんのやりとりを見守りながら、私は茫然としていた。
「と、泊まる?」
いったいどこで寝るというのだ。
うちは平屋の一戸建てだ。
部屋数だって限られているし、数少ない部屋もかなりの狭さだ。
お客さんを、しかも芸能人に寝泊まりしてもらう場所も布団もないはずだ。
私の部屋か。
いや、だめでしょ、そんなの。
夫婦でもないどころか、恋人でもないんだから。
それじゃあお父さんとお母さんの寝室?
もっとだめでしょ。
お父さんは今日出張で不在。
もっともっとだめじゃん。
どうする?
母よ。一体涼ちゃんをどうするつもりなんだー―――――。