今日から君の専属マネージャー
「じゃあ、次メイクするから、こっち向いて」
「は、はい」
と素直に言うことを聞いて体の向きを変えると、涼ちゃんの顔がいきなり目の前に現れる。
「ひっ」と小さく悲鳴が上がると、涼ちゃんは「ふふっ」と笑った。
そしてお腹を抱えて肩を震わせた。
「え? 何? なんで笑ってんの?」
「別に」
そう言いながら、涼ちゃんはウェットティッシュで私の口周りをそっとふいた。
「普通にご飯食べて、口の周りこんなに汚す?」
「くくくく」と苦しそうに笑いをこらえながら涼ちゃんは言った。
いや、もはやこらえきれてない。
「はい、じゃあメイクするよ」
そう言って、涼ちゃんのメイクは始まった。
髪を触られている時と同様、その触れ方はとても優しかった。
涼ちゃんの指先が頬に触れるたびに、息を止めた。
涼ちゃんの顔が目の前にあるだけで、目を開けていられないのに、涼ちゃんは「目、閉じないで」と色っぽくささやく。
涼ちゃんの真剣な目が私のまつ毛に注がれる。
伏せた目が私の唇を見つめて離さない。
恥ずかしさで唇を隠してしまいそうになると、顎を指でくいっと持ち上げられ、隠れた唇が顔を出す。
そして慎重に色を付けていく。
「今日はもう時間ないから簡単にだけど、さっきよりはマシかな。
まだまだ子供っぽいけど」
__まだまだ子供だよ。
「さあ、行こ」と涼ちゃんはリュックに残りの荷物を詰め込んで、その大きなリュックを背負って玄関に向かった。
時間を確認すると、まだ7時半だった。
もっと長い時間が経ったと思っていたのに。