今日から君の専属マネージャー
いつもの長い信号につかまりかけたところで、ルート検索が始まる。
私の目が捉えたのは、歩道橋だ。
はっきり言って歩道橋なんて絶対渡りたくない。
言うまでもなく、登りがきついからだ。
朝食を抜いた体に階段はきつい。
だけど今はそんなこと言ってられない。
ここの信号は捕まったら最後、2分43秒動くことができない。
私は歩道橋めがけて走り出す。
なりふり構わず足を開いて、一段飛ばしで駆け上がる。
吐き出される息の中に、悲痛な声が混じる。
やっと登りきったところで、予想通りのめまいに襲われる。
それを何とか振り切って、ふらふらと歩道橋の平坦な道を、手すりにつかまりながら走る。
歩道橋の上は妙に地面がふわふわとしていて、車が下を通るたびに揺れる。
その揺れに振り回されそうになる体を何とか足で踏ん張って端までたどり着く。
そして下を見れば、まためまいが起こる。
先を降りる人がかすんで見える。
手すりにつかまりながら足を順に出す。
ふらふらともたつく足に、もう片方の足が絡まりそうになるのを注意しながら降りていく。
だけど全速力で走り切った足には乳酸がしっかりたまって、重いというかだるいというか、地を踏む感覚がほとんどない。
もたつく足に引っかかって、とうとう私は階段を大げさに踏み外す。
こんなの、初めてのことじゃない。
ほんの数段落ちて尻もちをつくだけ。
だけど、今日はそういうわけにはいかないようだ。
私の足は階段をずるりと滑り、尻もちをつくどころか、そのままポーンと体ごと投げ出された。
自分の体が宙に浮いて、スローモーションで流れていく。
__やばい、これは、頭打つかも。
こんな状況で、なぜか冷静にそんなことが予想できた。
__こんなコンクリートの階段で頭なんか打ったら、もう一巻の終わりだよ。
冷静な私の頭が、ゆっくりといろんな映像を見せる。
これが、走馬灯というやつだろうか。
__はあ、ドラマの続き見たかった。
気になる。
あの後二人はどうなるんだろう。
こんなことなら、昨日徹夜して全部見とけばよかった。
どうせ今日も遅刻だし。
はあ、私の人生、こんなもんか。
私はどうして何をしてもダメなんだろう。
私にちゃんとした自己管理能力があったら、人生変わっていたのかな。
そこまで考えると、衝撃と一緒に時間が元の速さに戻る。
だけどその衝撃は思っていたほどではなかった。
むしろ柔らかく、暖かな地面に着地したようだった。
ふにゃりとした地面に手をついて起き上がる。
そして、私の下敷きになっているものの正体を確認して、私のほとんど残っていない血の気が一気に去った。