今日から君の専属マネージャー
涼ちゃんの言う通り、同居生活をすることで仕事は格段にしやすくなった。
吉田さんの言いつけを守って、外に出るときはかなり警戒しているけど、家では涼ちゃんの存在にも、そのスペックの高い顔だちにも、涼ちゃんのパンツが洗濯物の中に混ざっていることにも、ほんの数日で慣れた。
人間って、こんなにも適応能力が高い生き物だと驚く。
家に芸能人がいるというのに、お父さんもお母さんも、まるで昔からずっと一緒に暮らしている息子のように接していた。
朝は涼ちゃんが起こしてくれるので遅刻の心配もない。
朝ごはんも家族の分まで作ってくれるし、ご飯を食べながらメイクやヘアセットをしてもらうのもすっかり習慣化した。
出かけるときは基本、時間をずらし、涼ちゃんはキッチンの勝手口から出入りしている。
お互いの動向は気にしつつも、現場に着くまでは一切かかわらない。
電車に乗るときも車両を変える。
電車内での打ち合わせはもっぱらスマホのメッセージアプリを利用している。
電車内でもその日の仕事の資料を確認したり、アンケートに答えたり、やることはたくさんある。
そしてその日の仕事を終えて帰路に就くときも、行きと同じ。
駅で別れるふりをして、私は涼ちゃんとは反対側の改札口から駅のホームに入る。
そして車両を変えて電車に乗る。
家についても、私は玄関から、涼ちゃんは勝手口から入る。
だけど、「ただいま」のタイミングはほぼ一緒。
廊下で顔を合わせて目が合うと、自然と顔がほころぶ。
なんだかほっとする。
「涼ちゃんおかえり」
実の娘の前に、血のつながりのない推しメンにねぎらいの言葉をかけに行く母に対しても、嫉妬や寂しさはおろか、呆れも感じなくなった。
家に帰って、二人でご飯を食べて、順番にお風呂に入って、涼ちゃんに髪を乾かしてもらいながら明日の打ち合わせをして、「おやすみ」と言って部屋に戻る。
私はそのあとも部屋で吉田さんのファイルを見たり、涼ちゃんと打ち合わせしたことをもう一度確認したり、持ち物や服の準備をする。