今日から君の専属マネージャー
目を覚ました時には、朝になっていた。
自分から目が覚めたのは初めてなんじゃないだろうか。
重たい体を何とか起こす。
いつもは締め切られているはずの部屋の扉が開け放たれたままだ。
__なんでドア、開いてるんだっけ?
ボーっと考えながらおでこに手をやると、発熱した時に貼るひんやりシートが貼られていた。
ここだけまだほてっている感じがする。
おでこに手を当てた瞬間、昨日のことがよみがえってきて、熱が上がっていく感じがした。
鼻に違和感を覚えて手を持っていくと、細長く丸めたティッシュが差し込まれている。
そっと抜くと、ほんの少しだけ血が滲んでいた。
鼻血なんて、いつぶりだろう。
ティッシュをつまんだ手をぱたんとベッドに下ろした時、自分の足のあたりの重みの正体に気づいた。
涼ちゃんが、私の足元に頭を預けて眠っていた。
その寝顔はまるで、天使のようだった。
口を少しだけ開けて、すーすーと規則正しい寝息とともに、背中が上下している。
その寝顔に、思わず手を伸ばした。
窓からわずかに差し込む朝の光を反射して、黒髪がつやつやと光る。
ふわふわとした髪にそっと触れると、そのまま手のひらが頭の感触を確かめたがった。
初めて触れたときは、変装用のキャップ越しだった。
初めて触れる柔らかな髪が、指先をくすぐる。
指先に絡んでいく感触が気持ちいい。
その感触に浸りながら、何度か頭を撫でた。
「好き」
自分の声を、耳がかなりくっきりとらえた。
そう分かった瞬間、思わず口を両手でばっと覆った。
__あれ? 今私、なんか言った? 声、出てた?
すかさず涼ちゃんに視線をやる。
__ね、寝てるよね?
涼ちゃんの顔をそっと覗き込んだその時、涼ちゃんの目がぱっと見開いた。
その目とばっちりあって、私もびくりする。
そして涼ちゃんは突然ばっと体を起こした。
「今何時?」
「え、えっと……」
スマホの時計を確認して、私も一気に目が冴える。
「うわあ、もう7時半」
「美鈴、急げ」
家の中を荒らしまわり、私たちは朝食も食べずに、ものの30分で家を飛び出した。