今日から君の専属マネージャー

気を失った後のことは全く覚えていない。

もちろん鼻血を出したことも。

自分が気を失っている間に、一体何が起こっていたのか、想像するだけで恥ずかしい。

乙女に鼻血のことなど思い出させないでほしい。


「だから、ごめん。無理させて」


昨日のことが再び思い出されて、体中に熱が戻ってくるのを感じている私の目の前で、涼ちゃんは本当に申し訳なさそうに謝る。

その姿に、胸の奥の方がちくりと痛む。

私は態勢を立て直して涼ちゃんと向き合う。


「涼ちゃんは何も悪くないよ。勉強、教えてくれてありがとう」


正直、一つも頭に残っていないんだけど。


「それに、ずっと付き添っててくれたんだね。

 看病してくれて、ありがとう。

 そのせいで、今日寝坊して慌ただしくなったんだし」


私の言葉を聞いて、涼ちゃんがなぜかふっと笑った。

よくわからず疑問の目を投げかけると、その答えが返ってきた。


「まさか、俺のほうが美鈴に起こされるなんて思わなかったから」


そう言ってくすりと笑った。


「起こしてくれて、ありがとう」


私として起こしたつもりはなかったけど、そういった時の穏やかで、だけどどこか意地の悪い男の子の表情をする涼ちゃんに、また胸が爆ぜる。


__「好き」


耳に残る、声の記憶。

だけど妙な実感があって、私は思わず両手で口を押えた。


__今のは、口に出してないよね?


涼ちゃんの方をちらりと見ると、私を不思議そうな顔で見ている。


「どうした?」

「いや、何でもない」


私は何でもないふりをして、涼ちゃんから少し距離をとった。


< 62 / 136 >

この作品をシェア

pagetop