今日から君の専属マネージャー
撮影スタッフや関係者が続々とやってきたのは、それから一時間後だった。
廊下が妙に騒がしくなったのでそう感じた。
涼ちゃんはまだ帰ってこなかった。
一体どこに行ってしまったのだろう。
そろそろ関係者への挨拶まわりをする時間なのに。
控室の重たい扉をそっと開けて廊下を確認すると、狭い廊下は、私たちがここに到着した時よりも、ずっと賑やかになっていた。
道を譲りあって荷物が運び込まれ、ケータリングのお弁当や差し入れのお菓子がずらりと並ぶ。
スタッフが小走りで行きかい、それに混ざって厳しい声が飛び交う。
色とりどりのガムテープを何本も腰にぶら下げたスタッフさんの足音に、道具を運び込む台車のガラガラとうるさい音。
扉が開いたり閉まったりする鈍い音。
それらの音に耳を澄ませる。
何かが生まれる音がする。
聞こえる音に、空気に、風景に、わくわく感を覚えるようになったのは、ここ最近のことだ。
一つの作品に対して、たくさんの人がかかわって、たくさんの機材や衣装、小道具が運び込まれ、がらんとした空白のスタジオが一気に別世界に変わる。
何もなかった空間に、人の手で生み出される新しい世界。
その世界が出来上がっていくのを見ていることに、私は楽しさを感じ始めていた。
普段の私たちと何も変わらないような人たちも、メイクをして衣装を着れば、一気に別人に変身する。
それらはすべて、魔法のようだった。
何もないところからいろんな意見や考えが集まって、つながって、ひとつのものが生まれる瞬間に、私の胸はときめいていた。
そんな風に働く人が輝いて見えたし、自分もその中にいられることが嬉しくもあった。
と言っても、私にできることなんて、何もないんだけど。