今日から君の専属マネージャー

ちらりと上目遣いにもう一度本人を確認する。

芸能人にあまり興味のない私でさえ後ずさりしてしまうほどの完成されたルックスの威力は半端ない。

なんだかいい匂いがするし、何より彼の背後から放たれるオーラがまぶしすぎる。


「よろしくね。

 って、君は誰だったかな?

 ここは、羽瀬涼也の控室じゃないの? もしかして、ファンの子?

 こんなところまで入ってこられるなんて、もしかして、涼也の特別な人?」


甘くて優しい声が耳のすぐそばから聞こえてくる。

その声に思わず身を縮こませていると、それを追いかけるように、私の顔をのぞき込んでくる。

優しそうな瞳が、一瞬意地悪そうな目に変わる。

そっと肩に手が置かれたのを感じた時だった。


「俺の専属マネージャーだよ」


その声に、私たちは同時に後ろを振り返った。


「おっ、涼也、おはよ。涼也の専属マネージャーってどういうこと?

 吉田さんは?」


「いろいろあって、マネージャー代理だよ」

「へえ……代理でこんなかわいい子がすぐに見つかるんだね」


楓君は私をなめまわすようにじろじろと見つめてくる。

その妖しげな瞳に身動きが取れなくなる。


「お名前は?」

「……へ?」

「君のお名前、なんていうの?」

「あ、私……ですか?」


うんうんと、楓君はにこやかに首を大きく縦に振る。


「田村美鈴といいます。よろしくお願いします」

「へえ、美鈴ちゃんっていうんだ。かわいい。

 俺のことは、下の名前で呼んでくれていいから」


気安い感じに押されて、「はあ」と微妙な返事をすると、


「仕事関係の人なんだから、ちゃんと苗字で呼べよ」


そう厳しい声が私たちの間に割って入った。

涼ちゃんの厳しい目が、楓君に降り注ぐ。


__え? なんか、やばい感じ?


そう言えば、ネットニュースで見たことがある。

二人は共演NGスレスレの仲だと。

どっちもお互いの性格が気に入らず、以前テレビ番組で共演した際、意見が食い違って口論になったとか。

二人のにらみ合いは、ドキドキそわそわしている私を挟んで続いている。

はじめに動いたのは、楓君だった。


「こんなところでお前と見つめあってても嬉しくないからな」


楓君は鼻歌を歌う様にそう言って視線を外した。


「じゃあ美鈴ちゃんも、今日はよろしくね」


そう言いながら手をひらひらさせて、楓君は狭い廊下を歩いていく。

すれ違う人たちに、軽い調子であいさつをしながら、あの甘い笑顔を振りまいていく。

男性スタッフはそのオーラとルックスに押されるように恐縮し、女性スタッフは目を輝かせて跳ねる勢いで楓君に対応した。


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