今日から君の専属マネージャー
「美鈴ちゃん」
突然声をかけられてまたはっとなった。
「ああ、かえ……、早坂さん、お疲れ様です」
「だから、下の名前でいいって。涼也の言ったことは気にせず。
普通にタメ口でいいから」
「あ、うん……」
「あれ? どうしたの? なんか元気ない? もしかして、暇とか?」
「ああ、うん、暇……だね」
「え? それちょっと問題でしょ。マネージャーが暇って」
「そうなのかな」
「だって普通マネージャーって、こうやって撮影してる間もいろんなところで打ち合わせしたり、電話かけたり。
撮影終わったらすぐに駆け寄って次の仕事がどうとか、他のスタッフにいろいろ確認したり、一緒に写真確認したり、お水持ってたり……?」
そこまで言って、楓君は現状に気づいたのか、言うのをやめた。
「まあ、撮影見てるだけっていうのも、マネージャーの大事な仕事だと思うしね」
楓君が無理に慰めてくれているのがわかって、なんだか申し訳なかった。
「私、何もできなくて。ほんとにただ仕事についてきてるだけで。
マネージャーなんて名前だけで。水を持っていくことすらできない。
涼ちゃんに迷惑かけてばっかりで、足手まといで。
ここにいる意味、あるのかなって。
私なんかいなくても、涼ちゃんは一人で……」
言っているうちに、目頭が熱くなってくる。
スタジオの風景がかすみ始める。
ライトがきらめきを増しすぎて、ほとんど見えていない。
息を吸うと、ずずっと鼻水の音が鳴った。
ファンでもないのに、会ったばかりの国民的アイドルにお悩み相談をして、慰められて、ファンに恨みを買うのが恐ろしいわけではない。
涼ちゃんに愛想つかされて避けられているのが悲しいわけでもない。
いや、それはちょっと悲しいけど。
でも一番は、何もできない自分が、悔しい。
ここに、自分の居場所がないのが空しい。
それなのに、無意味にここに立っている自分が悲しい。