今日から君の専属マネージャー

その後も写真の確認作業は続いた。

涼ちゃんと楓君の対照的な感じを切り取った写真をメインに、涼ちゃんと夏木さんの大人びたツーショット写真。

そして私と楓君の、ふんわりと柔らで和やかな写真。

途中、顔がはっきり出てしまっている写真もあったけど、後ろ姿だけって約束だから、恐らくお蔵入りという奴だろう。

お蔵にでもどこにでも閉まってくれていい。

だけど、案外自分の姿が様になっているから、現像して記念に一枚ぐらいほしいなとも思ってしまうのは図々しいだろうか。

すべての写真を見終わって、「はあ」と思わず息が漏れた。


「これで本日の撮影は無事終了です。お疲れさまでした」

「お疲れさまでしたー」


楓君はひときわ大きな声で、スタジオの高い天井に向かって叫んだ。

その声にこたえるように、スタジオから拍手が沸いた。


「美鈴ちゃん、ありがとう。助かった。君がいてくれてよかった」

「こちらこそ、ありがとう。いろいろ気遣ってくれて。楽しかった」

「また一緒にできるといいね」


そんな楓君の言葉に、私の気持ちが揺れ動くのを感じた。


__また……


だけど頭を振ってすぐに我に返った。


「私はもう、今日ので十分だよ」

「そうなの?」

「うん。今日は楓君がいてくれたから、結果いい写真が撮れたけど、私だけだったら無理だし」


自分で言っておきながら、寂しさがこみあげてくるのはどうしてだろう。

いつもの私なら、そう言ってすぐに開き直れるのに。

だって学力ゼロ、体力ゼロ、女子力ゼロ、自己管理能力ゼロの私にできることなんて、何もないんだから。

何をやっても、ダメダメなんだから。

じわっと目に涙が浮かびかけたとき、


「美鈴ちゃんだけじゃないでしょ?」


楓君の声が、私の頭にそっと降り落ちる。


「え?」

「ここにはたくさんのスタッフがいる。みんなでひとつの作品を作り上げてる。

 美鈴ちゃんだけの力でできてるんじゃない。

 だから、美鈴ちゃんは、一人じゃない」


そして楓君は私の正面に向き直る。


「君はよく頑張った」


そういうと、楓君は私の頭にそっと手を置いた。

そして、髪をすくう様に、そっと撫でた。


「よくできました」


そう言って柔らかな笑みを漏らした。

その笑顔に、どきりとしてしまう。

思わず見惚れていると、楓君が私を不思議そうな顔で見ている。


「なに? 俺に惚れちゃった?」

「……うん、惚れそう。やっぱ、楓君って、かっこいいんだね」

「え? ……な、何それ。今さら?」


冗談っぽく楓君は「くくくっ」と笑いながら言った。

だから私も「ははは」と苦笑いで返す。

笑いあっていると、「でも……」と楓君は困った顔をした。


「そんなこと言われたら、本気になっちゃうよ」

「え?」

「ははっ。何でもないよ。じゃ、お疲れ」


そう言いながら、楓君はスタジオを出ていった。

それに続くように、他のスタッフさんたちも各々の仕事に戻っていく。

私は涼ちゃんの姿を探した。

涼ちゃんはまだ撮影された写真をモニターで確認していた。

涼ちゃんは、私のモデル姿を見てどう思っただろう。

真剣にモニター画面を見つめる涼ちゃんから、目が離せなかった。


__ほめてほしい。

  かわいいねって言ってほしい。

  よくできましたって、頭を撫でてほしい。
 

  そう願うのは、だめかな?



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