今日から君の専属マネージャー
外に出るとすでにタクシーは止まっていた。
だけど乗り込んで気づいた。
私は涼ちゃんの家を知らない。
だけど、行き先を告げる前にタクシーは発車した。
どうやら楓君がタクシーを手配するときに行き先まで伝えてくれたらしい。
涼ちゃんが住んでいるというマンションには本当に10分ほどで到着した。
止まった場所は、高層マンションが立ち並ぶエリアにあるマンションの一つだった。
タクシーから涼ちゃんをずるりと降ろし、マンションのエントランスまで歩いた。
セキュリティのしっかりしているマンションなのか、エントランス部分で早速オートロックにつかまる。
涼ちゃんの鞄をあさっていると、私の隣で涼ちゃんがのっそりと動き出す。
そして鈍い動きで、何の迷いもなくカギをリュックのポケットから取り出した。
涼ちゃんが取り出したのは、私の知っている「鍵」ではなく、カードだった。
それをエントランスにあるオートロックの機械にかざした。
ピッと音が鳴って自動ドアがゆっくりと開いた。
中に入ると、ものすごくいい匂いがした。
まるで高級ホテルにいるようだった。
ちなみに高級ホテルなんて行ったことないので、イメージだ。
ぼんやりと意識のある涼ちゃんを支えながら、エレベーターに乗り込む。
「えっと、何階?」と聞きながら、私は戸惑った。
ボタンがないではないか。
ボタンを押す準備をして止まったままの指先が、行き場を探している。
すると、
「こうするんだよ」
とぼうっとした声で言いながら、涼ちゃんはエレベーターの扉の横の壁に、カードキーをそっとかざす。
すると、ぱっと13の部分のランプがついた。
「ほう……」
のん気に感嘆の声を出している間に、涼ちゃんはエレベーターの隅にしゃがみ込んだ。
私もその近くにしゃがみ込んで、涼ちゃんの肩をなんとなくさすった。
足元がすうっとすくわれるような感覚とともに、エレベーターは音もなく動き出した。