今日から君の専属マネージャー
13階に到着すると、ほんわりと柔らかな明かりのともった廊下が左右に伸びていた。
しんとしていて、誰もいない。
私たちの足音だけが廊下に響く。
涼ちゃんの体を支えながらも、涼ちゃんが私を部屋まで導いてくれる。
ようやくたどり着いたのは一番奥の部屋だった。
ドアノブ付近に再びカードキーをかざすと、かちゃりと控えめな音が開錠を知らせる。
部屋の中に入ると、電気がぱっとついた。
つるつるとしたたたきの玄関は、磨き抜かれていてとてもきれいだった。
下駄箱の上も整理されている。
控えめな広さの玄関ホールのすぐそこにもう一つ扉があって、そこから部屋の中に入った。
扉を開けると、そこには目を見張るような光景が飛び込んできた。
「ひ、広い」
広い部屋の奥には大きな窓がずらりと並んでいて、そこから見える夜景は、テレビでしか見たことのない、素晴らしいものだった。
そして何より、
「き、きれい。きれいすぎる」
部屋は見事に片付いていた。
全然埃っぽくないし、物が床に置かれていることもない。
目に飛び込んできたキッチンも、新品同様の美しさで磨き上げられている。
「ここに、涼ちゃん一人で住んでるの?」
「そんなわけないじゃん。吉田さんとルームシェアしてるんだよ」
涼ちゃんは苦しそうな声でそう言いながら、床にバタンとうつ伏せで倒れこんだ。
「涼ちゃん、こんなところで寝たらだめだよ。いつもどこで寝てるの?」
「……上」
涼ちゃんが力なく指さした先を見ると、部屋の奥に階段があった。
その上にもう一つ部屋らしきものが見える。
「私支えるからさ、上行こうよ。ちゃんと布団で寝ないと」
起き上がらせようとしたとき「ムリ」とかすれた声で言う。
とりあえず涼ちゃんを床に寝かせたまま、私は家の中を探索し始めた。
「えっと、薬とかないのかな? そうだ、何か欲しいものない? 飲み物とか。
私すぐ買ってくるし」
「いいよ、そんなことしなくて。もう暗いし、一人で出歩くと危ないから」
「そんなこと言ったって……」
「それよりも、ここにいて」
「え?」
「ここにいるだけでいいから」
苦しそうな吐息交じりの声で、涼ちゃんはそう言った。
「う、うん」
そう返事しながらも、何かしないではいられなくて、体はうずうずしている。
__何か私にできることはないのかな。私、マネージャーなのに。
床で苦しそうに顔をゆがめる涼ちゃんを見つめることしかできない自分が情けなかった。
しばらく意気消沈していると、ピンポーンとインターホンが鳴った。
インターホンの画面に映っていたのは、楓君だった。
「あ、涼ちゃん、楓君が……」
「ああ、鍵、開けて」
「う、うん」と返事をしてからインターホン越しに「はい、今開けます」と返事をする。
数分後、楓君は玄関扉の前にいた。