今日から君の専属マネージャー
「お邪魔しまーす」と軽い挨拶をしながら、ビニール袋の音をがさがさとさせて入ってくる。
大きなビニール袋は、パンパンに品物が詰め込まれている。
部屋に入るなり、楓君は涼ちゃんの姿を見てぎょっとした顔をした。
「りょっ、涼也。大丈夫か?」
「……おお……」
「なんで床で寝てんの? なんか殺人現場みたいなんだけど」
二人のやりとりや醸し出す空気感は、今日の仕事現場のそれとはちょっと違うような気がした。
現場では、世間の噂通り、二人の関係は険悪に見えた。
だけど、今は違う。
会話もなんだか親し気で、昔からの友達みたいな軽い感じのやりとりをしている。
楓君も、現場ではすごく明るくて子供っぽくて、はじけるような笑顔をしていたのに、今は声も大人びていて、雰囲気も落ち着いている。
涼ちゃんもそんな楓君を、すんなり受け入れている。
「美鈴ちゃん、はい、これ」
「え?」
ぼんやりと二人のやりとりを見ていた私の前に、楓君が先ほど持っていたビニール袋が差し出される。
「お腹すいたでしょ。食べなよ」
「あ、ありがとう」
私に手渡すと、楓君は再び部屋の中を慌ただしく右往左往する。
「ちゃんと布団で寝ろよ」と言いながら、楓君は近くのソファに涼ちゃんを移動させる。
どこからかタオルケットと体温計をもってきたり、キッチンでおかゆを作ったりと、かなり手際がいい。
「これ、薬」「これ、着替え」「これ、飲め」。
そして最後に、「はあ、はあ」と苦しそうに息をして目をつむっている涼ちゃんのおでこに、ひんやりシートを貼る。
私の出る幕も、声をかける隙もなかった。