泡沫の瞳

「ねぇ、聞いて美緒(みお)茅野(かや)くんとキスしちゃった!」


お昼休み、お弁当を食べている最中だった。
笑顔でそう言って来たのは、私の親友…。
親友である真理(まり)は両手で頬をおさえ、とても幸せそうな顔をしている。


最悪だ…。


そんな感情を出さないように、私は笑った。


「そうなんだ、良かったね」

「茅野くんね、優しいの。ほんと王子様みたいで」

「うん」

「キスしていい?って」

「…」

「頷たらね?可愛いって言いながらキスしてきたの…」


ほんとに、最悪…。


「も、本当に幸せ…」


うっとりとしている真理に、もう一度「そうなんだ…」と呟く。決して〝良かったね〟という言葉は出さない。

顔に出さないように、私は真理から弁当に向き合った。今日の弁当には大好きなミートボールが入っていた。


それを口に含むと、「あ、噂をすれば」と真理の明るい声が聞こえ。
顔を上にあげれば、廊下から手をふってくる男がいて。どうも、たまたま、この教室の前を通ったらしく。

手をふった男は、そのままそこから離れていく。

「私に会いに来てくれたのかな?」と、乙女な顔になっている真理に、何も言えず。



何も言えない…。

真理には。

言うことができない。

私が、真理を裏切っていることを。




あいつは、正真正銘の悪魔なのに……。
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