泡沫の瞳
①
「ねぇ、聞いて美緒!茅野くんとキスしちゃった!」
お昼休み、お弁当を食べている最中だった。
笑顔でそう言って来たのは、私の親友…。
親友である真理は両手で頬をおさえ、とても幸せそうな顔をしている。
最悪だ…。
そんな感情を出さないように、私は笑った。
「そうなんだ、良かったね」
「茅野くんね、優しいの。ほんと王子様みたいで」
「うん」
「キスしていい?って」
「…」
「頷たらね?可愛いって言いながらキスしてきたの…」
ほんとに、最悪…。
「も、本当に幸せ…」
うっとりとしている真理に、もう一度「そうなんだ…」と呟く。決して〝良かったね〟という言葉は出さない。
顔に出さないように、私は真理から弁当に向き合った。今日の弁当には大好きなミートボールが入っていた。
それを口に含むと、「あ、噂をすれば」と真理の明るい声が聞こえ。
顔を上にあげれば、廊下から手をふってくる男がいて。どうも、たまたま、この教室の前を通ったらしく。
手をふった男は、そのままそこから離れていく。
「私に会いに来てくれたのかな?」と、乙女な顔になっている真理に、何も言えず。
何も言えない…。
真理には。
言うことができない。
私が、真理を裏切っていることを。
あいつは、正真正銘の悪魔なのに……。
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