泡沫の瞳
そんなことを思っていると、「あ、美緒カレ来たよ」と、真理が言い。
複雑な感情がまた増えていく。
教室の中に入ってきた男は、「美緒」と低い声を出した。低いけどこれは地声。


付き合って2年になる彼氏だから、もうこの声に怖いとは思わず。もう慣れている私は、「どうしたの?」と微笑んだ。


「や、一緒にお昼どうかなって思ったんだけど、遅かったみたい」


声は低いけど、柔らかく笑う人。
私はこの柔らかく笑う彼が好きだった。
綺麗な黒髪をして、二重で笑うと少しタレ目になってしまう。

背は多分、175cmほど。


「ごめんね」


申し訳なく眉を下げると、「ううん、俺が連絡しなかったから。また放課後迎えに来るね」と、笑った彼は、付き合って2年になっても優しく。

教室から出ていく彼を見ながら、罪悪感が凄くて。思わず追いかけたくなってしまう。


「ほんと、仲良いね。杏李(あんり)くんと」


杏李。

七渡(ななわたり)杏李(あんり)


私の彼…。


「うん、ケンカとか、したことない…」

「いいなぁ、そういうの憧れる」

「杏李が優しいから…」

「わかる、優しいオーラ半端ないよね?しかも顔いいし」

「…」

「私も付き合って2年とか言ってみたいなぁ」


ふふと、笑う真理に、笑った私は、もう食欲がなく。唇を噛み締めながら、杏李の背中を思い出していた。



私は、杏李も裏切っている…。



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