泡沫の瞳
次の日の休み時間は、杏李とお昼の共にした。そこは杏李の教室だった。
高校三年生で別々のクラスになってしまった私達は、お昼を一緒に食べる時はこうしてどちらかが互いの教室に来ていた。
けど、最近は杏李の教室の方が多いかもしれない。今の杏李の席は窓際で、端の方で2人っきりで食べることができるから。
私はこのゆっくりとした場所が好きだった…。
「唇、昨日の今日で良くなったね」
柔らかく笑う杏李を見つめる。真っ黒の髪が似合う杏李はどちらかというと中性的で。杏李が昔、「顔は母親ゆずり」と言っていたことを思い出す。
女顔…。
「うん…昔から、1晩たてば荒れるの治るから…」
というよりも昨日が擦りすぎたから…。バレないように私は笑った。
「知ってる、いつも柔らかいから。美緒の」
いつも?
「なんていうのかな?ぷっくりというか、みずみずしいっていうか。弾力?凄い気持ちいいし…だからつい、長くしちゃう」
キスのことを言ってるらしい。
甘い、恥ずかしい事を言ってくる杏李に、両頬が赤く染まる。
笑っている杏李は、どちらかというとぷっくりとはしてない。けれども形は整っていて細い…。
「もう…」
恥ずかしくて顔を逸らせば、くすくすとからかっているような甘い笑い声がする。
「だって、本当のことだから」
「あんり…」
「したいな」
「え?」
「していい?」
していい?って…。
「ここで?」
「うん」
「教室だよ?」
「昨日しなかったから」
ちらりと教室の中を見れば、何人かの生徒がお昼を食べていて。
困ったまま杏李を見つめると、笑っている杏李が「じゃあ、しないかわりに今日はデートね」と、私の頭を撫でた。
どこまでも優しい杏李に、心が高鳴った。
帰り道でのキスは長かった。
昨日してないぶん、本当に長く。
全く離してくれない杏李は、ゆっくりとした動きで愛情をくれる。
愛おしそうに何度も頭を撫でられれば、私の方だってもっと杏李が欲しくなって。
「……もっと、一緒にいたい…」
杏李が私の家に来るのは初めてじゃなくて、もう何度も来たことがある。
私の家に来た杏李は、定位置になっているところに荷物を下ろした。
キスは止まらず、そういう流れになって。ベットの上で行う行為だって、何度も杏李とシた。
高校生で、2年も付き合っていれば、体を重ねるなんて当たり前で。
私の服を脱がす杏李を、私はぎゅっと抱きしめた。
杏李が好き、杏李しか触られたくない…。
泣きそうになりながら、私はずっと彼を抱きしめていた。