たとえ9回生まれ変わっても




家に帰ると、おばあちゃんがエプロンをつけて台所に立っていた。

お父さんとお母さんは、まだ店から戻ってきていない。

「おかえり、アオノ」

やっぱり、紫央には何も言わない。

わたしは小さく、ただいま、と返して部屋に入ろうとすると

「まだ拗ねてるの。まるで小さな子どもね」

おばあちゃんが呆れたように言うから、むっとした。

どうせ、わたしは子どもだ。
いなくなった猫を忘れられずにいつまでもいじけている小さな子ども。


シオの物だってずっと捨てられずにいた。
それさえもう、手元になくなってしまったけれど……。

忘れて何事もなかったように振る舞えるほど、わたしは強くない。

「おばあちゃんにはわからないよ」

わたしは日本語でつぶやいて、部屋のドアを閉めた。





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