たとえ9回生まれ変わっても
◯
喉が乾いて、夜中にふと目が覚めた。
お茶を飲もうと部屋を出たとき、部屋の外から音がした。
1階の玄関のドアが開く音だ。
時計を見ると、12時を過ぎている。
こんな時間に誰かが家を出たのだろうか。
窓を開けると、そっと冷たい風が入り込んできた。
暗闇の中に、小さな人影が見えた。
少し大きめの白いシャツ。
ふわふわと風に揺れるやわらかい髪。
「紫央……?」
淡い月明かりにぼんやりと照らされた後ろを見つめる。
紫央はとなりの部屋で寝ているはずだ。
だけどあの後ろ姿は、どう見ても紫央だった。
こんな時間にどこへ行くんだろう。
紫央もわたしと同じように、何かを探しているんだろうか。
気になったけれど、追いかけることはできなかった。
どうしてか、追いかけてはいけないような気がしたんだ。