たとえ9回生まれ変わっても
◯
昨日はよく眠れなかった。
紫央の行方が気になって、部屋に戻ってからも、布団の中で目を閉じたり開いたりを繰り返していた。
そのうちに、玄関が開く音がした。
紫央が帰ってきたのだ。
帰ってきたことに、わたしはホッとする。
もしかしたら、そのままいなくなっちゃうんじゃないかって、心配したから。
どれくらい時間が経っただろう。
1時間、いや、もっと経っていたような気がする。
夜中に、そんなにも長い時間、紫央はどこに行っていたのだろう。
ただの散歩にしては長いし、わざわざそんな時間に出て行く必要だってない。
何か、目的があるような気がした。
でもそれがなんなのかは、まるで見当もつかなかった。
そのまま布団の中でじっとしていると、となりの部屋からゴソゴソと音が聞こえた。
いったい、紫央は何をしているんだろう。
いっそとなりの部屋のドアを開けて聞いてみようかとも思った。
だけどわたしは、結局部屋どころか布団からも出ることができずに、悶々としていたのだった。
おかげで、ものすごく寝不足だ。
今日が休みだったらいいのに。
部屋を出ると、おばあちゃんが荷造りをしていた。
早々とよそ行きの格好に着替えて、スーツケースに荷物を詰めている。
「おはよう、おばあちゃん」
わたしは後ろから声をかけた。
おばあちゃんが家に来てから、初めて自分から声をかけたことに気づく。
「おはよう、アオノ」
おばあちゃんが振り向いて言う。
「どこか、行くの?」
わたしは英語で言ってみた。
おばあちゃんは意外そうな目でわたしを見た。
「あら、英語、話せるんじゃない」
「……少しなら」
わたしはなんとなく恥ずかしくなって言った。
「向こうのお友達に呼ばれちゃってね。お母さんたちに挨拶したら、もう帰るわ」
「えっ、いまから?」
今度は驚いて日本語がでた。
それはまた唐突な話だ。
「ええ、いまから。わたしも忙しいのよ」
おばあちゃんはふふっと目を細めて笑う。
となりの部屋のドアが開いて、紫央が目を擦りながら出てきた。
ふわあ、と眠そうなあくびをする。
あんな夜中に外に出ていたんだから紫央だって眠いだろうな。
わたしは思うけれど、見て見ぬふりをする。
「おはよう、紫央くん」
おばあちゃんは、今日は紫央にもちゃんと挨拶をした。
「おはよう、おばあちゃん」
紫央もにっこりと笑って返す。
わたしは驚いて、2人の顔を交互に見た。
はじめは見向きもしなかったのに、いったいどういう心境の変化だろう。
昨日、わたしが学校に行っている間に何かあったんだろうか。
和平条約?
休戦協定?
いや、そもそも最初から、存在を無視していたのはおばあちゃんだけだったけれど。
「それからこれ」
おばあちゃんが、傍らに置いてあったダンボールの箱を開けた。
中を覗き込んで、わたしは目を見開く。