たとえ9回生まれ変わっても




昨日はよく眠れなかった。


紫央の行方が気になって、部屋に戻ってからも、布団の中で目を閉じたり開いたりを繰り返していた。



そのうちに、玄関が開く音がした。

紫央が帰ってきたのだ。


帰ってきたことに、わたしはホッとする。


もしかしたら、そのままいなくなっちゃうんじゃないかって、心配したから。


どれくらい時間が経っただろう。


1時間、いや、もっと経っていたような気がする。


夜中に、そんなにも長い時間、紫央はどこに行っていたのだろう。


ただの散歩にしては長いし、わざわざそんな時間に出て行く必要だってない。


何か、目的があるような気がした。


でもそれがなんなのかは、まるで見当もつかなかった。


そのまま布団の中でじっとしていると、となりの部屋からゴソゴソと音が聞こえた。


いったい、紫央は何をしているんだろう。


いっそとなりの部屋のドアを開けて聞いてみようかとも思った。


だけどわたしは、結局部屋どころか布団からも出ることができずに、悶々としていたのだった。


おかげで、ものすごく寝不足だ。


今日が休みだったらいいのに。



部屋を出ると、おばあちゃんが荷造りをしていた。

早々とよそ行きの格好に着替えて、スーツケースに荷物を詰めている。

「おはよう、おばあちゃん」

わたしは後ろから声をかけた。


おばあちゃんが家に来てから、初めて自分から声をかけたことに気づく。

「おはよう、アオノ」



おばあちゃんが振り向いて言う。


「どこか、行くの?」


わたしは英語で言ってみた。


おばあちゃんは意外そうな目でわたしを見た。


「あら、英語、話せるんじゃない」


「……少しなら」


わたしはなんとなく恥ずかしくなって言った。


「向こうのお友達に呼ばれちゃってね。お母さんたちに挨拶したら、もう帰るわ」



「えっ、いまから?」



今度は驚いて日本語がでた。


それはまた唐突な話だ。


「ええ、いまから。わたしも忙しいのよ」


おばあちゃんはふふっと目を細めて笑う。


となりの部屋のドアが開いて、紫央が目を擦りながら出てきた。


ふわあ、と眠そうなあくびをする。


あんな夜中に外に出ていたんだから紫央だって眠いだろうな。


わたしは思うけれど、見て見ぬふりをする。


「おはよう、紫央くん」


おばあちゃんは、今日は紫央にもちゃんと挨拶をした。


「おはよう、おばあちゃん」


紫央もにっこりと笑って返す。


わたしは驚いて、2人の顔を交互に見た。


はじめは見向きもしなかったのに、いったいどういう心境の変化だろう。


昨日、わたしが学校に行っている間に何かあったんだろうか。


和平条約?
休戦協定?

いや、そもそも最初から、存在を無視していたのはおばあちゃんだけだったけれど。



「それからこれ」


おばあちゃんが、傍らに置いてあったダンボールの箱を開けた。


中を覗き込んで、わたしは目を見開く。












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