たとえ9回生まれ変わっても
「捨てて、なかったの……?」
ダンボールの中には、捨てられたと思っていた、シオの物が全部入っていた。
「捨てたなんて、嘘をついてごめんなさいね。あなたがあんまりいじけてるから、つい意地悪したくなっちゃったのよ」
「なんで……?」
なんで、そんな嘘をついたのだろう。
本当に、ただの意地悪だったのだろうか。
そうだと思っていた。
昨日までは。
だけどいまは、それだけではないような気がした。
「古い物は、いつかは手放さなければならない。持ち主がいないのならなおさら、持っていても仕方がないから。でも、いまはまだ、そのときじゃないみたいだからね」
おばあちゃんは含みのある言い方をした。
「知ってる? 欧州ではね、猫にまつわる言い伝えには『9』が多いの」
「9……?」
おばあちゃんは、ええ、とうなずく。
「イギリスではね、猫は9回生まれ変わると言われているのよ」
「そんなに?」
「猫は9生まれ変わる。3回は遊びに、3回は放浪の旅に、3回はじっとしていることに費やすんですって。それってすごく猫らしい生き方だし、なんだか楽しそうじゃない」
「楽しそう……?」
そんな風に、考えたこともなかった。
シオはどこに行ったんだろう。
どうしていなくなってしまったんだろうって、そればかり考えていた。
「あなたの猫はもしかしたら、いなくなってしまったかもしれない。だけど、きっとまた生まれ変わって、どこかで楽しくやってると思うわ」
おばあちゃんは手を伸ばして、わたしを抱きしめた。
その温もりに、わたしはギュッと胸が掴まれたように苦しくなった。
それからおばあちゃんは、紫央のことも抱きしめた。
「蒼乃のこと、よろしくね。わたしの大事な孫を、ちゃんと見守っていてちょうだいね」
「はい」
紫央はうなずいた。
「約束します」
手を離したおばあちゃんをまっすぐに見つめて、紫央はそう答えた。
おばあちゃんが店に挨拶に行くと、お母さんたちは驚きつう、気をつけてね、と笑って送り出した。
まるでいつものこととでもいうみたいに。