たとえ9回生まれ変わっても


突然やって来て、突然去って行ったおばあちゃん。

おばあちゃんは英語で、わたしは日本語で、ちぐはぐな会話は、ほとんど伝わっていなかったと思う。

だけど、表情や仕草だけで、おばあちゃんの言いたいことが、ちゃんと伝わってきた。

”悲しい顔をしないで”

“元気を出して”

きっと、そう伝えてくれたのだ。

わたしは学校の準備をして、1階に下りた。

紫央ももうすぐ店に出る時間なのに、わたしが家を出るときはいつも見送ってくれる。

「ねえ紫央」

わたしは靴を履きながら言った。

「ん?」

紫央が首をかしげる。

「昨日、おばあちゃんと何を話したの?」

おばあちゃんの態度が急に変わったのには、驚いた、、

紫央のことを見ようともしなかったおばあちゃんが、いきなり態度を変えて、紫央のことを抱きしめるなんて。

でも、紫央はいたずらっぽく笑っただけ。

「ヒミツー」

「……あ、そう」

ほんとうはもうひとつ、聞きたいことがあったけれど……。

それは、口にはできなかった。

「じゃあ、いってきます」

「いってらっしゃい」

手を振る紫央に背を向けて、扉を閉めた。




 
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