たとえ9回生まれ変わっても
◯
黒岩先生が教科書を読みながら、顔をあげる。
「じゃあここを、森川」
きた、と思った。
無意識に体が強張る。
わたしは立ち上がって、ノートを手に持った。
予習はいつも通りちゃんとしてある。
大丈夫、と自分に言い聞かせて口を開く。
ところどころ間違えつつも、いつもより大きな声で答えることができた。
黒岩先生はいつもみたいに、声が小さくて聞こえないとか、見掛け倒しとか、嫌味を言わずに、ふんと鼻息だけを鳴らして次の問題に移った。
笑い声も聞こえてこない。
ーー言えた……。
間違えても、つっかえても、前より恥ずかしいと思わなくなった。
わたしが堂々としていれば、まわりの態度も変わるんだ。
簡単なこと、だけど、いままでできなかったこと。
顔を真っ赤にして俯くことしかできなかった少し前のわたしからすれば、ものすごい進歩だ。