たとえ9回生まれ変わっても
「ところで森川さん」
吉田さんが、グイッと身を乗り出して言う。
「紫央くんとはどうなの?」
「え、紫央?」
「あ、わたしも気になってた。一緒に住んでるんでしょ?」
「う、うん」
「朝起きてから夜寝るまでずっと一緒でしょ?」
「ずっとではないけど……」
「でもさ、あんなかわいい子が同じ家にいたらもう、抱きしめたくならない?」
「なる、超なる!」
「ええと……」
もう勉強のことは頭の隅に置いやったのか、さっきまでのテンションとはうって変わって、2人は目を爛々と輝かせている。
「でも、紫央は期間限定でうちでバイトしてるだけで、いつかは出て行くんだし」
「だし?」
2人の顔がさらに近づく。
「わたしがどう思おうと、紫央はたぶん……」
紫央はきっと、そう長くないうちに、うちを出て行く。
最初からそう決まっていたんだから。
だからこれ以上、踏み込むことをためらってしまう。
「でも、好きなんでしょ」
井上さんがわかりきっているように言った。
「顔にそう書いてあるから」
吉田さんがにんまりと笑う。
えっ、と驚いて、思わず自分の顔を両手で触った。
頬が火照っている。