たとえ9回生まれ変わっても


「これ」

わたしの手のひらに、紫央が手を乗せた。

リン、と小さな音。

わたしは目を見開いた。

息を飲んで、それを見つめる。

「紫央……これって」

それは、小さな鈴のついた、青い首輪だった。

裏に『シオ』と名前が書いてある。
シオがうちに来てから、10年間ずっと、首につけていたものだ。

どうして、紫央がこれをーー?


「どうしても、見つけたかったんだ。蒼乃がぼくにくれた、最初のプレゼントだから」

紫央は言った。

わたしは、唇が震えてすぐに言葉が出てこなかった。

「蒼乃がこれを首に巻いてくれたとき、ぼくは嬉しかった。ぼくは蒼乃の猫になったんだと思った。この家にいていいんだと思ったんだ」

「シオなの……?」

震える声で、わたしは言った。

「うん」

紫央は優しい目でうなずいた。

「なんで黙ってたの……?」

「信じてもらえないと思ったから」

そんなの、信じられるわけがない。

猫のシオが、男の子の姿になっているなんて、信じろというほうが無理に決まっている。

だけど、シオの首輪のことを、数ヶ月前にうちに来たばかりの紫央が知っているはずがない。

ううんーー違う。
わたしはたぶん、どこかで気づいていた。

突然家にやってきた、不思議な男の子。

シオと同じ青い目で、同じ名前。

気まぐれで、危なっかしくて、目が離せなくて。

なんにも知らないくせに、うちのことだけはよく知っていた。

出会ったばかりじゃなかった。

ずっと、一緒にいたんだ。

どこかで気づいていたのに、いままで目を背けていたのはーー

たぶん、気づきたくなかったから。


気づいてしまったら、認めなければならなくなるから。

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