たとえ9回生まれ変わっても

「蒼乃」

紫央が言う。

「黙っていてごめん。ぼくは、1年前に死んだんだ。病気で、もう長くないのを知っていた。だから、家を出たんだ」

死んだーーその言葉に、胸を突き刺されたような衝撃を受ける。

気づきたくなかったこと。

認めたくなかったこと。

シオがもう生きてはいない、ということ。

……やっぱり、そうなんだ。

でも、ここにいる。

猫じゃない。
男の子の姿で、わたしの前に立っている。


「この公園は、ぼくが覚えている最初の場所なんだ」

紫央は懐かしい思い出話をするみたいに語った。

生まれたばかりのころ、お母さんがどこかから食べ物を持ってきて、茂みの中で食べさせてくれたこと。

寒い日に体を寄せあって一緒に眠ったこと。

ある冬の日、お母さんが病気になってしまった。

どんどん弱っていくお母さんに何もしてあげられなくて辛かった。

いつもパンをくれるという馴染みのパン屋の前で、お母さんと別れた。

ここの人はいい人たちだから。
元気でね。

そう言って。

それから10年間、ずっとそばにいた。

でも今度は自分が病気になってしまった。

心配かけないように元気にふるまっていたけれど、体で知っていた。

死がすぐ近くまで迫っていることを。

大切な人が悲しむ顔を見たくなかった。

だから、去年のクリスマスの夜ーー

みんなが寝静まったあとに、そっと家を抜け出した。


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