たとえ9回生まれ変わっても
「行かないでよ、紫央。もうどこにも行かないで……」
小さな子どもみたいに泣きじゃくるわたしを、紫央は抱きしめた。
そして、そっとキスをした。
「蒼乃。大好きだよ。いままでずっと、楽しかった。蒼乃の猫になれて、ぼくは最高に幸せな猫だったよ」
ああ、そっかーー。
前に紫央が言った言葉を思い出す。
『あの家の猫になれて、シオは最高に幸せだったと思う』
あれは、シオの言葉だったんだ。
「わたしも、シオと一緒にいられて幸せだった」
ずっと、ずっと、一緒にいたかった。
だけど、一緒にはいられないんだ。
わかっていたから、出て行ったんだ。
「蒼乃にはお別れを言わないつもりだった。どうしても言えなかった。さよならを言ったら、泣いてしまうから。蒼乃の泣き顔を、見るのが辛かったから」
1年前の今日も、シオは夜にいなくなった。
こっそり家を出て、それきり帰ってこなかった。