たとえ9回生まれ変わっても
◯
「いってきます」
玄関で靴を履きながら言う。
「いってらっしゃい。気をつけてね」
お母さんに見送られて扉を閉める。
外は一面の雪景色。
真っ白な世界に、朝の光が降り注いできらきらと輝いている。
雪だるま、つくれなかったな。
雪はどこまでも続いているけれど、手を冷たくしてひとりでそんなことをする気にはとてもなれない。
ふと、庭の隅に目をやって、わたしは足を止めた。
こんもりと山のように盛られた雪のうえにあるものを見つけた。
雪だるまだった。
小さな、猫の形をした雪だるま。
目のところに、青いビー玉がふたつついている。
「ーー紫央」
わたしはその場に座り込んだ。
その瞬間、堪えていた涙が目からあふれた。
昨日の夜。
みんなが寝静まったあと、紫央はひとりで雪だるまを作って、家を出たんだ。
「約束、守ってくれたんだね」
どこまでも澄み渡る青い空の下、小さな猫の雪だるまの前で、わたしは涙を流した。