たとえ9回生まれ変わっても
Epilogue.
クリスマスが近づくと、毎年思い出す。
ある日突然ふらりとやってきて、行ってしまった君のことを。
「お父さん、これどこに並べればいい?」
「ああ、それはなーー」
日曜日。
わたしは朝早くから店に出ていた。
高校を卒業して、わたしは大学に通いながら、家のパン屋の手伝いをしている。
近くの飲食店に作りたてのパンを卸すことも増えてきて、お父さんが配達に行っている間は、わたしが店番だ。
最近はようやく、苦手な接客にも慣れてきた。
人と向きあうのが苦手だからといつも目を伏せていたけれど、顔をあげるようにしたら、気づくことがたくさんあった。
自分が不安でいっぱいな顔をしていたら、目の前にいる人も不安になる。
笑顔でいれば、人も自然と笑顔になるのだと。
まだまだ見習いだけれど、パンを作るのも、接客も、頑張っていきたいと思う。
「じゃあ蒼乃、配達行ってくるから、よろしくな」
「うん。いってらっしゃい」
店内は朝の光に満ちて、焼きたてのパンの香ばしい匂いにつつまれている。
扉が開いて、人が入ってきた。
「いらっしゃいませ!」
わたしは笑顔で言った。
入ってきたその人を見て、わたしは息を飲んだ。
首に青いマフラーを巻いた、背の高い男の人。
その人は青い空色の目でわたしを見て、やわらかく微笑んだ。