たとえ9回生まれ変わっても
1.『青い瞳』
チョークの音が教室に響く。
英語の黒岩先生が文法の説明をしてから、ぐるりと教室を見回す。
「じゃあここの英訳をーー」
黒岩先生の視線が、わたしのところで止まる。
嫌な予感に、思わず肩がすくんだ。
「森川」
名前を呼ばれて、ああ、やっぱり、とうなだれた。
本当なら、顔ごと机に突っ伏したかったけれど。
「森川蒼乃ー、いないのかー?」
黒岩先生は、わざとらしく名前を強調して言う。
「……はい」
わたしは下を向いたまま立ち上がった。
つっかえつっかえで、全然言葉にならない。
予習はちゃんとしてきた。
意味だってちゃんと理解しているつもりだ。
でも、立ち上がった瞬間、そこに書いてある言葉が文章じゃなく、バラバラの暗号みたいに見えてくるのだ。
喉の奥から絞り出すように精一杯声を出しているのに、実際に口から漏れる声は、虫の息みたいにか細い声だった。
「聞こえないな。もっと大きな声で言ってくれないか?」
「すみません……」
そうつぶやくと、黒岩先生はふん、と馬鹿にしたように笑った。
「損だよなあ。そんな見た目で、まともに英語喋れないなんてな」
そんな見た目、という言葉が、わたしの胸を突き刺す。
どうしてそんな風に言われなきゃいけないんだろう。
ーーわたしだって、好きでこんな見た目に生まれたわけじゃない。
だけど、反論なんてできなかった。
見た目のことを言われて、いままで一度だって言い返せたことなんてないのだ。
できないことを急にできるようになるはずがないことは、よくわかっている。