たとえ9回生まれ変わっても
「いただきまーす」
紫央が手をあわせて言い、ロールパンを頬張った。
「おいしいー」
おいしそうに食べるなあ、とわたしは感心する。
『ぼく、ここのパンが大好きなんだ』
紫央はそう言っていたけれど、まるで初めてその食べ物を口にした人みたいだ。
わたしは小さいころからパンばかり食べていたから、おいしいとは思っても、いちいちそんな風に感動できない。
紫央がうちに来て3日目になるけれど、素直な男の子だというのはわかった。
おいしい、嬉しい、楽しい。
思ったことをなんでも口にする。
居候だからといって気遣いなどどこにもなく、まるで自分の家みたいにくつろぐ。
そして寝たいときに寝る。
「どうしたの、蒼乃?」
キョトンと首をかしげる紫央に、どきりとした。
「……なんでもない。ごちそうさま」
わたしはそう言って、着替えるため自分の部屋に戻った。
「あの、ついてこないでくれる?」
「なんで?」
「……着替えるからっ!」
人に対して、こんなに声を張り上げるのは初めてかもしれない。
お母さんやお父さんにでさえ、こんな風に大声をだしたりしないのに。