たとえ9回生まれ変わっても
紫央といると、緊張している自分が馬鹿みたいに思える。
制服のシャツのボタンを止めて、胸のリボンを結ぶ。
本棚の隣にある姿見は、制服がおかしくないかを見るために置いているけれど、制服と一緒に、顔も視界に入る。
鏡の中の自分を見ると、ときどき、わたしってこんな顔をしていたっけ、と思うことがある。
お父さんとも、お母さんとも、似ていない。
まるで自分とは別の誰かがそこにいるような。
自分の顔を見てそんなことを思うのは、変なのだろうけれど。
支度を終えて、1階に下りる。
紫央は今日1日、どうするのだろう。
人のいいお母さんとお父さんは、紫央のことを完全に信用しきっているみたいだけれど、留守番なんてさせて大丈夫なのだろうか。
ちょっと不用心すぎじゃない?
紫央は自分のことを話したがらない。
言えない事情があるのか、話したくないのか。
そんな人を、どうやって信用すればいいのだろう。
いくら見た目がかわいらしくても、じつは裏の顔があるかもしれないし。
でも……。
『蒼乃を、暗闇から連れ出してあげる』
まるで天からやって来た救世主みたいな言葉だ。
夢見る子どもでもないし、その言葉を信じているわけじゃない。
でも、真剣だった。
嘘をついているとは、思えなかった。
だから頭から疑ってかかることも、できないんだ。