たとえ9回生まれ変わっても
◯
学校に着いて靴を履き替え、教室に向かう。
朝の教室は賑やかだ。
おはよー、と挨拶が飛び交い、どこからともなく笑い声があがる。
「何の話ー?」
「聞いてよ、昨日さあー」
1人が輪の中に入って「まじでーっ」とさらに笑い声は大きくなった。
途中からやってきて当たり前のように輪の中に入っていける人たちは、わたしから見ればものすごくコミュ力が高いように思える。
そんなことをすれば、盛り上がっている話題を中断してしまう。
それどころかわたしは、クラスメイトに挨拶する勇気すら持ち合わせていないのだけれど。
誰にも声をかけず、かけられることもなく、静かに席について、予習をしたり本を読んだりしながら、担任の先生が入ってくるのを待つ。
井上さんと吉田さんは、教室の後ろで、女子グループで盛り上がっている。
わたしは教室の隅で、そっと気配を消している。
目立たないように、浮かないように。
教室の空気の一部みたいに。わたしに比べたら、空気のほうがずっと活発だろう。
紫央と普通に話せるようになって、もしかしたらほかの人ともこんな風に話せるかもしれない、と思った。
だけど教室に入った途端、ちっぽけな勇気はすぐに萎んで消えてしまう。
日常がほんの少し変わったとしても、それはわたし自身の力じゃない。
結局は、何も変わらない。