たとえ9回生まれ変わっても
扉が開いて、緊張が走る。
「いらっしゃいまし!」
さっそく噛んでしまった……。
「あっ、森川さんだ!」
入ってきたのは、クラスの女子3人組だ。
「すごーい、ほんとにいた!」
3人は「かわいいー」「パンおいしそう!」とはしゃぎながら店内を見回している。
「ね、あの男の子は?」
やっぱり、訊かれると思った。
「ごめん……あの、いま休憩中で」
そう言うと、3人はあからさまに残念そうな顔をした。
「そうなんだー」
「残念だねー」
「それ目的で来たのにー」
なんだか申し訳ない気持ちになった。
わざわざ紫央に会いに来たのに、いるのはわたしだけなんて、そりゃがっかりするよね……。
急にテンションが下がってパンを選びはじめた3人をよそに、わたしはレジの下でマニュアルを開いてチェックをする。
ええと、会計の仕方は……。
3人がひとつずつパンを選んで、カウンターに置いた。
「小銭ないんだけど、お金別々にできる?」
「ごめんなさい、別々はちょっと……」
言いながら、焦ってマニュアルに書いてあったことを思い出そうとする。
別会計のやり方なんて書いてあったっけ? ああ、全然思い出せない……。
「あーいいよ、できないなら」
面倒くさそうに言われて、またしても申し訳ない気持ちになった。
「……えっと、じゃあ、600円になります」
「ねえあの男の子、まだ休憩終わらないの?」
お金を払った女の子が、不満そうに言った。
「えっ」
「森川さん、ここの店の娘なんでしょ? ちょっと連れてきてよ」
「そうだよー。うちらそのために来たんだからさあ」
「ね、わざわざ来たのに会えなかったら無駄足じゃん?」
「えっと……」
朝から頑張っていた紫央。
すごく眠そうな顔を思い出す。
さっき休憩に入ったばかりなのだ。
きっとまだ疲れて寝ているに違いない。