たとえ9回生まれ変わっても
案の定、ゆっくり話をする暇なんてなかった。
お客さんは途切れることなく次々とやってくる。
まさに、猫の手も借りたい、という感じ。
6時近くになってようやく一息ついたころ。
「こんにちはー」
扉が開いて、入ってきた顔に、あっ、と声をあげた。
「おつかれさま。今日は大変だったんじゃない?」
と井上さんが言う。
「忙しいかなあと思ったけど、来ちゃった」
と吉田さん。
「あ、あはは……」
ヘトヘトに疲れきっていたわたしは、苦笑いを浮かべた。
2人は部活終わりらしく、肩に大きなスポーツバッグを下げていた。
「あーお腹空いた。いまならいくらでもパン食べれちゃうよ」
「どれもおいしそうー」
疲れているはずなのに、この2人の前では、不思議とあまり疲れを感じなかった。
井上さんはお母さんに頼まれたというイギリスパンを一斤と惣菜パン、吉田さんはお気に入りだというクリームパンを買ってくれた。
「ありがとうございました!」
紫央が元気に言って、わたしも小声で続く。
「あはは、紫央くん、すっごいいい笑顔」
「また来たくなっちゃうよねー」
2人とも、楽しそうに笑っている。
店の中が夕焼け色に淡く染まる。
お店に出て、こんな風に景色を感じられる余裕があるなんて、思わなかった。