たとえ9回生まれ変わっても
「……紫央」
「ん?」
「昨日は、ごめん」
わたしは言った。
「わたし、ひどいこと言った。自分のことばっかりで、紫央の気持ち、全然考えてなかった。ごめんなさい」
おそるおそる、紫央の顔を見る。
「うん」
紫央はにっこり笑ってうなずいた。
その笑顔で、その一言だけで、心にかかっていた雲がすっきり晴れたみたいに、軽くなった。
「怒ってないの……?」
「怒ってないよ。ちょっと寂しかっただけで」
う、とわたしは声を詰まらせる。
「ぼくは嬉しかったよ」
紫央は言った。
「嬉しかった……?」
「お父さんが、うちの子どもですって言ってくれたとき、嬉しかったんだ」
『いえいえ、うちの子どもですよ』
とお父さんは言った。
あの言葉には、わたしだけじゃなく、紫央も入っていたんだ。