たとえ9回生まれ変わっても
3.『家に帰ろう』
10月のはじめ、学校のそばの銀杏並木が黄色く色づきはじめたころ、お父さんが家に帰ってきた。
本当はもう少し早く退院する予定だったのだけれど、思ったより回復が遅く、時間がかかったのだという。
「もう無理しないでちょうだいよ。腰が悪いんだから、お客さんがいないときくらい座ってればいいのに」
「そう言われてもなー。店にいるとあれこれやりたくなっちまう性分なんだよ」
「性分で体壊されたらたまんないわよ」
お母さんはなんだかんだと文句を言いながらも、お父さんが家にいるのが嬉しそうだ。
退院の日は店を休みにして、家でごちそうを食べた。
うちのごちそうは、もちろんパンだ。
ココットにちぎった食パンとチーズを入れて焼いたパングラタンと、チキン、野菜とベーコンのスープ。
「おいしいっ!」
いつものように紫央が目を輝かせて、ものすごい勢いで食べている。
お腹を空かせた猫みたいだな、と思う。
シオも、いつもより少し豪華なご飯をあげると、こんな風に青い目をキラキラさせてお皿に飛びついていた。
ーーここにシオがいたら、もっとよかったのに。
お父さんが退院して、お祝いの日にまで、こんなことを考えてしまうのは、悪い気もする。
でも、どうしたって重ねてしまう。
1ヶ月前、突然あらわれた、シオと同じ名前、同じ色の目をした男の子。
去年のクリスマス、シオは家を出て行ったきり、帰って来なかった。
あれからもうすぐ1年が経とうとしている。
いま、どこにいるのだろう。
お腹を空かせていないか。
寒い冬を越せるだろうか。
もしかしたらもうーー。