たとえ9回生まれ変わっても
◯
テストの日は、学校は半日で終わる。
みんな思い思いに遊びに行ったり、家に帰って寝不足を解消したりするのだろう。
井上さんと吉田さんは彼氏とデートらしく、上機嫌で帰っていった。
2人とも中学のころから付き合っている彼氏らしい。話は聞いていたけれど、彼氏がいるってどういう感じなのか、わたしにはまったく想像もつかない。
「買い物? いいじゃない、紫央くんと一緒にいってらっしゃいよ」
服を買いに行きたいんだけど、とお母さんに言うと、あっさり承諾された。
「紫央も? 店はいいの?」
「大丈夫よお。お父さんも退院してしばらく経つし、座りながらなら仕事できるから。休んでばっかりで、お父さん暇なのよ。ちょっとずつ普段の生活に戻していかないとね」
それに、とお母さんは優しい口調で続けた。
「紫央くん本当に頑張ってくれてるし、蒼乃にも無理させちゃったから」
これで好きなもの買ってきなさい、とお小遣いを渡された。
たしかに、服は早急に買いに行ったほうがよさそうだ。
普段どこかに出かけることを意識して服を選ばないため、ごくシンプルなTシャツやパーカーなど、部屋着とほとんど変わらないような服しか待ち合わせがない。
そして紫央はといえば、わたし以上に服を持っていなかった。
店の制服とわたしが貸している部屋着のほかは、1ヶ月前にうちに来たときに着ていたヨレヨレのTシャツとズボンと下着、それだけだ。
お母さんが洗濯とアイロンをかけて多少ましにはなっていたものの、間違ってもおしゃれな女子と出かけていい格好ではない。
「よし、行こう」
「うん、蒼乃!」
靴を履いて、玄関を出る。
「いってらっしゃい。気をつけてねー」
「迷子になるなよ!」
お母さんとお父さんが外まで見送りに来て手を振る。
なんだか初めてのおつかいに駆り出される子どもみたいだ。