たとえ9回生まれ変わっても


「すごーい! きれい!」

店に入った瞬間、吉田さんが声をあげた。

「この店、映えるって人気だよね!」

と井上さんもテンションがあがっている。

水族館をイメージしたカフェだという。

全体的に青っぽい照明に、壁に映る魚や涙の映像。
店の中心にある大きな筒状の水槽では、大小さまざまのカラフルな魚たちが泳いでいる。

ピアノ音楽に水槽から聞こえる泡の音があわさって、幻想的な空間を演出している。

わたしも思わずほう、と息を吐いた。
本当に水族館にいるみたいだ。

「お待たせしましたー」

キャラクターに扮した店員さんが料理を運んできた。

ピラフの上に、大きな卵焼きとベーコン。
大きなオムレツと、ふわふわのパンケーキ。
デザートの水色のゼリーには、ベリーとハーブが添えられている。

「おいしそう……」

紫央がうっとりした声でつぶやく。

「うん……って、紫央?」

紫央が顔をくっつけて食い入るように見ていたのは、出てきた料理ではなく、目の前にある大きな水槽だった。

見惚れるのはわかるけど……おいしそう?

「ちょっと、なにやってるの」

「あっ、ごめんつい」

えへ、とまたしても可愛く笑って済ませようとする紫央を、わたしは呆れながら座らせる。

「紫央くんて、おもしろいよね」

「うんうん、見てて飽きないよねえ」

おもしろい、で済ましてもらえてよかった……。



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