たとえ9回生まれ変わっても
「なんか2人、カップルみたいだよな」
と祐希くんが笑いながら言った。
「えっ」
2人って……紫央とわたしが?
「うん。俺も、てっきり付き合ってるのかと思ったよ」
紫央を見ると、キョトンとしている。
たぶんよくわかっていないんだろうな、と思ったら、少し違った。
「カップルってなに?」
紫央は不思議そうに尋ねた。
「ええ? そこから?」
紫央は、当たり前に知っているようなことを知らなかったり、かと思えば、なんでそんなこと知ってるの? と思うようなことを知っていたりする。
一瞬、戸惑う空気が流れたものの、すぐに祐希くんが戻してくれた。
「あ、そうか。紫央くん、もしかして外国生活が長かったとか? 外国だと、カップルって一対って意味だから、日本と少し違うのかもな」
「へえー、そうなんだ」
納得する雰囲気になって、わたしはほっとした。
……って、なんでわたしがほっとしているんだろう。
「カップルってのは、恋人同士ってことだよ」
祐希くんが言い直した。
「恋人同士? ぼくと蒼乃が?」
うんうん、と4人がうなずく。
紫央の目が、ぱっと輝いた。
「ほんと? 嬉しい!」
「ええ!?」
「だってぼく、蒼乃のこと大好きだもん」
そう言って、紫央がいきなり抱きついてきた。
「なっ……なななななにしてるの!?」
家の中でいきなり抱きつかれるのはもう慣れてきたけれど、ここお店なんですけど?
みんな見てますけど!?
「まさかの公開告白っ!」
「紫央くんやるねえ!」
なんか盛り上がってるし!
「いいぞいいぞ!」
「おめでとう!」
ほかのお客さんまで拍手してるし!
恥ずかしすぎる……!
「わ、わたし……」
震える口から、声を絞りだす。
恥ずかしすぎる。
頭から湯気が出てピーッと停止する前に、わたしは立ち上がった。
「トイレ行ってきますっ!」
おそらく自分史上最速と思われる動きでトイレに逃げ込み、勢いよくドアを閉めた。