たとえ9回生まれ変わっても




「ねえ、今からボウリング行かない?」

カフェを出たあと、井上さんが提案した。

え、とわたしは声をあげたけれど、その声は小さすぎて誰にも届かなかった。

「わたし、いまボウリングにハマってるんだよね」

「いいねー」

吉田さんと翔くんも賛成して、駅の近くにあるボウリング場に行くことになった。

白くて大きな建物。
中にカラオケやビリヤードやダーツもあって、幅広く遊べるので学生に人気のスポットだ。

中に入ると、同じくらいの歳の学生たちでいっぱいだった。

わたしは、小学校のときに一度、ここへ来て以来だった。あのときは地域の交流イベントの集まりだった。

思い出したくない記憶が蘇って、気分がずしりと重くなる。

もう何年も前のこと。
他人にとっては、そんなこと、と笑って済ませられるような些細なことかもしれない。

だけどわたしは忘れられなかった。

言葉には重みがある。
言ったほうはすぐに忘れても、言われたほうは、ずっと覚えているのだ。




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