たとえ9回生まれ変わっても
わたしは定期を持っているから、紫央の切符だけを買って、改札を通る。
階段をのぼっていく。
紫央が少し先で、わたしがあとで。
夕焼けが落ちてくるみたいに明るくて、わたしは目を細めた。
ホームには人がたくさんいた。
ひんやりした壁にもたれて電車を待つ。
電車が来るのは10分後だ。
紫央は前を見ていた。
白い横顔に青い瞳が、夕焼け色にきらめく。
いま何を考えているんだろう。
ねえ、紫央ーー。
そう声をかけようとしたとき、紫央がわたしを見た。
「蒼乃。聞いてもいい?」
いつも直球な紫央が、そんな風に改まって尋ねるなんて珍しいことだ。
わたしはつい身構えてしまう。
「さっき、なんで元気なかったの?」
「えっ」
ボウリング場でのことだ。
ボールを持ったとき、思わず足がすくんだ。
ボールが手から滑り落ちるように離れて、レーンを転がっていった。
紫央のおかげですっかりそれどころではなくなったけれどーー
「……思い出したんだ」
夕焼けの中でくっきりと浮かぶ自分の影を見つめながら、わたしはぽつりとこぼした。