たとえ9回生まれ変わっても


「……本当は、ちゃんと言いたかった。嫌だって。変なあだ名も、笑われるのも。お父さんとお母さんのことを言われるのも」

どこにも入れてもらえないみたいで。

わたしだけが、どこにも存在してはいけないみたいで。

次第に目を伏せて過ごすことが多くなった。

学校でも、家でも。

お父さんとお母さんは何も悪くない。

わかっているのに、目を見たくなかった。
目を合わせれば、自分とは違うことを嫌でも見なければいけないから。

思い出すとまた、泣いてしまいそうになる。


「蒼乃、いままでよく頑張ったね」

紫央が言った。

「違うよ」

わたしは首を振る。

頑張ってなんかいない。
頑張れなかったんだ。

言い返すための言葉を持っていなかった。
ただひたすら鎧の中に自分を閉じ込めて、これ以上傷つかないよう守るので精一杯だった。

「頑張ったよ。だって蒼乃は、誰のことも傷つけなかったんだから」

2つの青い瞳がわたしを見つめて、にっこりと微笑む。

どうしてだろう。この目を見ると、安心する。
力が抜けて、身を委ねたくなってしまう。

『誰のことも傷つけなかったんだから』

それは、そうするための武器を持っていなかっただけ。

たったそれだけのことでも、頑張った、と褒めてもらえるのなら。
それは、きっとーー。


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