たとえ9回生まれ変わっても
「きっと、シオのおかげだよ」
「ぼく?」
紫央がキョトンとして自分を指した。
わたしは小さく笑った。
「猫のシオだよ」
ある日、お母さんが、小さな猫を抱いて家に連れてきた。
店の前にちょこんと座っていたと言って。
野良猫のシオは、ボロボロだった。
痩せ細って、毛玉だらけで、白猫なのに全身黒ずんでいた。
だけど、2つの青い瞳だけは、はっとするほど鮮やかに澄んでいた。
わたしは、小さな猫を抱きあげて、にっこりと笑った。
『わたしとおそろいだね』
この子もほかの猫と違う目の色をしていたから、仲間外れにされちゃったのかな。
何も知らないけれど、勝手に、そんな風に思った。
青い瞳が、どことなく寂しそうに見えたから。
最初は食欲がなくあまり動かなかったけれど、少しずつ食べる量が増えていった。
うちの店の塩パンがお気に入りだったから、名前は「シオ」になった。
後から考えると、そのときは味の濃いものがほしくて、塩パンを好んで食べていたのだろうけれど。
友達だと思っていた子たちに笑われて、馬鹿にされて、心を閉ざしていたわたしにとって、唯一の友達はシオだけだった。
「猫のシオは幸せだったね」
と紫央は微笑んで言った。
「蒼乃にこんなにも大切に思われて。あの家にもらわれたシオは、きっと最高に幸せな猫だったと思うよ」
「そうかな……」
それは、大げさだと思うけれど。