たとえ9回生まれ変わっても


でも、とわたしは続ける。

ーーでも、それなら、なんで?

「それなのにどうして、自分から出て行っちゃったのかな」

シオは昼間外に出かけることはあっても、夕方になる前には必ず家に帰ってきた。

わたしが学校から帰ってくると、いちばんに出迎えてくれた。

だけど、あの日は違った。

クリスマスの夜、わたしはいつも通りシオと一緒に布団に入った。
朝目が覚めると、シオはいなくなっていた。
家の中のどこにも。

そしてそれきり、二度と帰って来なかった。

「猫はさ、自分の最後をご主人様に見られたくないんだよ。大切な人ならなおさら、悲しむ顔を見たくないんだよ。だから、夜のうちにこっそり出て行ったんじゃないかな」

紫央は言った。

最後ーー。

どこかで予感はしていたはずなのに、やっぱり言葉にすると胸が痛む。

シオは死んでしまったのだろうか。
家を出ただけで、いまもどこかにいるんじゃないか。

ずっとそんな気がしていた。
そう思いたかった。
そしてもしかしたら、ある日またひょっこり帰ってくるんじゃないかって。

そんなのは、わたしの都合のいい妄想なのだろうか。


「でも、知らないうちにいなくなるほうが悲しいよ。お別れもできないなんて。ずっと一緒って、思ってたのに……」

「猫は勝手な生き物だから」

「なにそれ」 

まるで猫のことをよくわかっているような口ぶりに、わたしは少し笑ってしまった。

「家に帰ろう、蒼乃」

紫央が手を差し出した。

「うん」

わたしはその手をとった。

とくん、と胸が鳴る。

男の子と手を繋いだのなんて初めてで、緊張した。

日が落ちるのが早くなった。

夜が来る前の少し冷たい風が頬を撫でていく。

だけど、繋いだ紫央の手は、焼きたてのパンみたいにやわらかくて温かかった。


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