たとえ9回生まれ変わっても
昨日の夜。
夜ご飯を食べたあと、電話が鳴った。
もしもし、と電話にでたお母さんが、ああ、と言って、すぐに英語に切り替えた。
お母さんは流暢な英語で何かを話せ、電話を切ってから、くるりとわたしとお父さんを見た。
『大変。明後日、おばあちゃんがこっちに来るって』
『明後日? そりゃまた急だなあ』
お父さんはのんびりと返す。
『あの人は思い立ったらすぐ行動、だからね。退職して暇ができたから遊びに来るんですって』
おばあちゃんは長年イギリスで教師をしていた。
2年前におじいちゃんが亡くなってからも、一人暮らしをしながら仕事を続けていた。
定年退職をしたいまは、自宅でパンを焼いたり、趣味の絵を描いたりしながら、悠々自適に過ごしているらしい。
『それじゃあ、色々と準備しておかないとな』
とお父さん。
『そうねえ。せっかくだから、ご馳走作らないとね』
それで今日、わたしと紫央が買い出しに遣わされたのだった。
ご馳走といっても、おばあちゃんが1人家にくるだけなのに、こんなに食料がいるのだろうか。
わたしがおばあちゃんに会ったのは、小さいころに一度だけ。
だからほとんど何も覚えていない。
うっすらと記憶があるような気がするのは、たぶんアルバムの写真を何度か見ているからだろう。