たとえ9回生まれ変わっても


今日は当たりませんように。

そんなまるであてにならないことを心の中で願いながら、授業が始まるのを待つ。

チャイムが鳴って、英語の黒岩先生が教室に入ってくる。わたしは自然と下を向く。

教科書を開いて、と黒岩先生が言った。

「今日はここの文法から……」

今日の授業は前半は文法の説明で、後半は練習問題とリスニングだった。

何人かが当てられて、難なく答えたり、答えられなかったりした。

よかった。今日は当たらなさそう。

わたしはほっと胸を撫で下ろす。

たかが1時間の授業くらいでこんなにビクビクするなんて、我ながら気の小ささに呆れてしまう。

そんな態度だから、余計に先生も苛々するのだろう。

淡々と授業が進み、チャイムが鳴った。

「来月、スピーチコンテストがある。各学年から1人ずつ代表者を選ぶことになっている」

黒岩先生が教科書を立てて端をそろえながら、そう言った。

スピーチコンテスト。そんなものがあるのか。
そういえば、入学説明会のとき、学年行事の中にそういうのがあった気がする。

たしか、学校から代表者を選び、発音やスピーチの内容、伝える力があるかどうかを競う、という趣旨だったと思う。

でもそういうイベントの代表者に選ばれるのは、たいてい生徒会やクラス委員をやるような、普段から目立つタイプの活発な生徒と決まっている。

わたしには関係ないことだと、それほど意識せずに聞いていた。

「代表で、森川にやってもらおうと思う」

え?

耳を疑った。
なんでわたし?


< 91 / 157 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop