たとえ9回生まれ変わっても
わたしは呆然と黒岩先生の顔を見た。
「英語の成績は森川がトップだからな」
クラスメイトの視線がわたしに集中するのがわかって、わたしは俯いた。
ひそひそと声が聞こえる。
森川さんが?
ええー、無理でしょ。
わたしだってそう思う。
「森川、詳しいことを説明するから、放課後職員室にくるように。いいな」
どうやらわたしに拒否権はないようだ。
「……はい」
わたしは俯いたまま答えた。
黒岩先生が教室を出て行ってからも、わたしはしばらくそのままじっとしていた。
クラスメイトたちは、スピーチコンテストのことなど早々に興味をなくして、席を立って関係ない話題で盛り上がっている。
「森川さん、大丈夫?」
声をかけてくれたのは、井上さんと吉田さんだった。
「あ……うん」
わたしはどうにか顔をあげて、苦笑しながら答えた。
「あれ、どう考えても嫌がらせだよね」
「うん。わたしもそう思う」
2人は顔をしかめている。
「普通さ、こういうのってまず立候補者を募るものじゃないの? それで誰もいなかったら仕方ないかもだけど。あれはさすがに一方的すぎだよ」
「森川さん、嫌なことは嫌って、はっきり断ったほうがいいよ」
嫌なことは嫌。
はっきり言えるのなら、わたしだって言いたい。
だけど、さっきの先生の言い方に、断れる余地なんてあっただろうか。
「ありがとう」
でも、とわたしは続ける。
「仕方ないよ。あとで話聞きに行ってみる」
「そう?」
「森川さんは人がいいなあ」
不満そうな2人に、わたしはぎこちない笑みを浮かべることしかできなかった。