たとえ9回生まれ変わっても
その日はずっと気分が重かった。
ここ最近は晴れが続いていたのに、今日の空はいまにも雨が降りそうな暗い雲がかかっている。
窓越しにその空を眺めていると、余計に気分が重くなった。
説明ってなんだろう。
どうしてわたしなんだろう。
成績だけがよくても、人前でスピーチなんて、明らかにわたしには不向きな役割だ。
ほかにもっとふさわしい人がいるはずなのに。
本当は職員室なんて行かずに、授業が終わったらすぐに帰ってしまいたかった。
だけど言われたことを破って帰ったりしたら、またあとで文句を言われるに違いない。
わたしは重い気持ちを引きずったまま、職員室の扉を開けた。
「これがスピーチコンテストの概要だ。ざっと目を通してくれ」
プリントは3枚あり、スピーチコンテストについての説明、日時、場所、内容について、おおまかに書かれていた。
「作文は得意だろう。今週中に内容を考えて提出するように。いいな」
「……はい」
わたしに断る権利なんてはなからないように、黒岩先生は淡々と説明をした。
スピーチの内容は世界で起こっている問題について考える、というものだった。
環境問題や人権問題などが例として挙げられている。
時間は5分以内で、観客は100人。
場所は市民ホールで、学校の行事で何度か行ったことがあるけれど、舞台と2階建ての観客席がある、大きな会場だ。
読んでいるうちに、頭がくらくらしてきた。
あんな大きな会場で、100人の前で、5分間も話さなければならないなんて。
教室で短い文章を読むだけでも頭が真っ白になってしまうのに。