たとえ9回生まれ変わっても
「食べ物? お店のこと書いたら?」
「世界の問題についてなのに、うちみたいな小さいパン屋のこと書いたってしょうがないよ」
世界の問題なんて、規模が大き過ぎて何も考えられない。
どうしてわたしなんだろう。
ほかにもっと、向いている人はたくさんいるはずだ。
人前で話すのが得意な人。
作文が得意な人。
ただ目立ちたいってだけの人でも、わたしよりはずっと向いていると思う。
わたしには何も言えないし、考えられない。
人前で何も話せなくて、俯いて時間が過ぎるのを待っている自分しか、想像できない。
わたしはシャーペンを筆箱にしまって机に頭を乗せる。
明日はおばあちゃんがうちに来る日だ。
おばあちゃんに聞いてみようかな、と思った。
去年退職したけれど、長年教師をしていたベテランだ。
自分では緊張してしまって話せないけれど、リスニングなら得意だし。
わたしは写真に映っていたおばあちゃんの顔を頭に浮かべた。
優しそうな表情の、わたしと同じ青い目をした女の人。
10年以上前に会ったきりで、記憶にも残っていない。
いったいどんな人なんだろう。
明日のことを考えると、なんだか少し落ち着かなくなる。
仲良くなれるといいな、と思った。
遠く離れているけれど、わたしと同じ青い目の色をした人。
おばあちゃんに会えば、何かが変わるような気がしていた。