ずっと探していた人は
「加恋」

終礼が終わり、担任の先生が教室を去ったのと同時に、甘い声が教室に響き渡る。

「涼くん!」

荷物もまとめずに、私は満面の笑みを浮かべながら全速力で教室のドアに駆け寄る。

涼くんの周りには、相変わらずたくさんの女の子がいるし、私の教室でも騒いでいる女の子がいる。

その様子に不安で胸が締め付けられるような思いがしたけれど、私は出来るだけ気にしないようにした。

だって、涼くんは、私の彼氏だから。

「加恋、今日もかわいいなあ」

涼くんも周りを気にせず、また甘い言葉で私を喜ばせてくれる。

「そんなこと、ないよっ」

涼くんの言葉に、ボボンと顔を赤く染めた私を、涼くんはハハッと笑った。

「今日、学校来るって言ってた?」

次に学校へ来るのは、来週だと思っていたんだけど。
私の勘違いだったかな?

「ううん、今日はさっき来たよ」

「さっき?」

「うん、今日はとても幸せな気持ちだから、加恋に共有したくて」

涼くんが穏やかに笑う。

「だから一緒に帰れる?」

その一言に私は全力でうなずき、荷物をまとめるために自分の席へ戻った。

涼くんと会える日は少ないけれど、会えた時はとっても嬉しい。

そして私に会うために来てくれたのなら、もっと嬉しい。

私は急いで荷物をまとめて、彼の元へ戻った。


「おまたせ」

女の子に囲まれて談笑している彼に声をかける。

「涼くん……」

気付いてほしくて名前を読んでみるけれど、周りの女の子の声にかき消されてしまって、彼に私の声は届かない。

私は彼を中心にできた輪から少し離れて見守った。

何度見ても、慣れない苦しい光景。

モデルは人気商売だっていうことも分かっている。

けれどやっぱり自分以外の複数人の女の子たちと楽しそうにおしゃべりしている姿は好きになれない。

人気があることは喜ぶべきことなんだろうけど、素直に喜べないのは、私の心が狭いのかな。

「お、加恋、バイバイ!」

「また明日な~」

「滝川さん、またね」

そんな私の隣を徹たち野球部3人組が通り過ぎていく。

「うん、バイバイ」

いつも通りの笑顔は作れたかな。

皮肉にも涼くんが私に気が付いてくれたのは、野球部3人が声をかけてくれた直後だった。
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